だんだん減る未来 未来

薬がかなり安定してきた。

新しいバイトを始め、行きたかった病院に行き、ずっと遅くなったご祝儀を送り、友達に連絡をし、次に会う予定を取り付け、欲しかった高い買い物をし、毎日家族にお礼を言う。

あらゆることが進んだ。

6歳の頃の自分に戻ったような、毎日が小麦色の柔らかい光で満たされているように明るい。

喉が乾いたら水を飲むことができる。

植物を観たくなったら、庭に出てじっと樹木に近づき観察することができる。

寒くなったら毛布をだして、くるまることができる。

血の流れは軽く、足や肩は咲きたての花びらのように柔らかい。

ゆるやかで、信じられないほど気ままなで単純な時間だ。

他人の心の複雑さに不安を感じる隙間がない。

世の中の大多数の人たちは、こうやって生きているのだろうか。

「それが普通だよ」

「あなたは考えすぎなの」

「そんな考えは捨ててしまいなさい」

そう言われて、ああそれでいいのか、と納得する。

しかし同時に、今までのわたしのグルグルした時間はなんだったのだと思う。

そして、いまこの年齢でまだ学生をしており、家族の援助を受けている自分が、社会ではレールから外れた人間だと定義されやすいことを忘れてはいけないとも思う。

『考えすぎる自分』のことは好きである。（わたしは自分が大好きなのである。）

１つの物事をとにかくよく考えることが精神安定になっていた時期があったし、それで良い評価をもらったことも何度かあるからだ。

その『好きな自分』のことを否定したくはない。わたしの特性の１つだから。

今更それを捨てることをしたくないし、染み付いているからできない。

ただ、今まではずっとそれがONになっていたのが、薬物療法やカウンセリングや他者との交流を経て、ON/OFFのスイッチがついたのだと思う。

まだそのスイッチをコントロールできてはいない。

でも「今ONになっている」「今はOFFになっている」と言うのがわかるようになってきた。

それはとても良かったと思う。

感情の波形がはっきりしてきて、自分の現在の感情がupperかdownerかの自覚を持てるようになってきた。

downerであれば「自分は今気分が落ち込んでいる、今色々言われてもうまく対応できないので、戻るまでそっとしておいてください」と周囲に伝える。そして迷惑をかけるまえにそっと離れる。

だれかに迷惑をかけてしまい、さらに「自分は駄目だ」と塞いでしまうのを避けたい。

感情という動物のコントロールはできなくても、馬銜から手綱へ伝わってくる感覚はわかるようになってきた。

ゼミの先生にも連絡をした。

4月から学校に通えそうですと伝えたら喜んでくれた。

外を見たら梅が咲いていた。

もう冬が終わる。冬は好きな季節だから寂しい。

そして春は一番苦手な季節だ。空気に浮かれて必ず間違ってしまうから。

今年の春はどうなるだろう、いや、考えすぎか。

まだ冬は終わっていない。冬を楽しもう。